スパーク
視聴率挽回を狙って、テレビ局が画期的なチューナーを秘密裏に開発したという噂が流れる。
噂を聞きつけ、僕はネットの闇ルートから、数十万円はたいてチューナーを購入し早速テレビにつなぐ。
チューナーの箱にはこう書いてある。
「ご購入ありがとうございます。この商品はあなたのテレビライフをダイナミックで予測不可能なものとします。
情報保護の観点から詳しい性能や内容は記載致しませんが、我々の番組をみていただければおのずと判明する
ことと思います。質問にはいっさいお答えできません。利用は自己責任でお願いします。」
わくわくするような文言だと僕は思う。
期待に満ちあふれ、僕はテレビをつける。途端にテレビが強烈に火花を飛ばしスパークする。
すぐさま部屋の電気が消えて、家全体が振動しそのまま震えて停電を引き起こす。
暗闇の中、手探りで僕はヒューズを探しに行く、が、ヒューズはちゃんと上がったままだ。
どういうことだよこれ!とロウソク片手に怒り心頭のまま僕はテレビのある部屋に戻る。
テレビの画面からは、青やら黄色やら色とりどりの光線が今もなお、小刻みに外に向かって放たれている。
先程より穏やかではあるものの、高電圧の塊と化したテレビはまるでミシシッピー川を我が物顔で泳ぎ回る雷魚のようだ。
光に強さと目の痛さにクローゼットにあったサングラスをかけて画面を見ると、放送されている番組が実はクイズ番組であることに気付く。
しばらくそのまま遠巻きに、テレビの画面を見ていて、ああ、それでかと僕は思う。
さっきのスパークはちょうど、クライマックスのジャンピングチャンスだったんだ。
新聞を開き、別のチャンネルで今話題の連続ドラマの最終回が放送されているのを確認する。しかし、思い立ち。
リビングから椅子と机を引っ張ってきて、テレビの前に積み重ねてバリケードを築く、それから本棚から一番大きい百科事典を取り出し、
盾として体の前に積み重ねる、そして深呼吸を2,3回してから、思い切ってリモコンでチャンネルを切り替える。
画面ではヒロインが長セリフを終え、大粒の涙をこぼし駆け寄ってきているところだ。
テレビが目もくらむ程光輝き、次の瞬間、窓から見渡す限りの外の家々の灯が全て消え、町中が嗚咽で共鳴する。