困ったことに・・

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困ったことに、私の飼っている乳牛が買い物から戻ってこない。
乳牛はここ数日は可哀想なことにいささか不調だった。不調がゆえに朝ミルクを絞る事が出来ないでいた。
明日は首都から娘夫婦が帰省してくるから、私としてはなんとか特性のミルクパイを出したいので、
朝から一緒に乳業と乳搾りを頑張って見たが、残念ながら今日もミルクを得ることができなかった。
責任を感じた乳牛は今日は私の代わりに買い物に出ることを主張したのだ。
乳牛の立場もわかるし、私も家の掃除やらプレゼントの準備やらで忙しかったから、
うっかりお願いしてしまったので私にも責任はないとはいえないけれど、
パイの下ごしらえをして、いよいよって時にミルクがまだ到着しないなんてちょっと悲しいわね。

そもそも、と私はエプロンを外しながら考える。
乳牛がショッピングセンターまで辿りついて、買い物を終え、家路につくまで、数多くの障害と誘惑があるではないか。
仮にうまくショッピングセンターにたどり着いたとしても、乳牛がミルクを購入する樣はなかなか見物だし、
たぶんお客さんだって何もいわないだろうけど少なくともじろじろとは見るだろう。どうかしてたのね私。
それに、乳牛だってどのミルクを買ったらいいかわからないだろうし、並んでいるミルク瓶を見て辛い気持ちになるかもしれないし。
悪いことしたかもしれないね。

心配になって、私は着替え始める。
「やれやれ、こんな事なら自分でいけばよかったよ」と独り言を言う。
紅く染まりつつある空の下、私は木の草履をはいて、カラコロと急いで歩いて行く、
砂利道をすぎて、草原に出た所で私のようやく私の乳牛を発見する。
私の乳牛はキョロキョロしながら、文字通り道草を食っている。
「やっぱりね、心配して損したわ」とため息をついて、乳牛に近づいて行く、
私に気付いた乳牛は弁解するように尾っぽと頭を垂れ下げる。
乳牛の耳と背髪をひっぱって私達は一緒に家路につく。
首にかけた鈴と乳牛が買ってきたミルク瓶があたってチリンチリンと音がなる。

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