すきま
駅のフォームで電車のすきまに私はハンドバックを落とす。
すぐさま、青と黄色のマジックハンドを持った駅員が駆け寄って、落としたハンドバックを拾おうとする。
その10メートルはあろうかという長大でダイナミックなマジックハンドは私を魅了する。
苦闘の末に、私のハンドバックがマジックハンドにしっかりと握られている。
しかし、化粧品を取りだしている途中だったのでハンドバックが空いている。持ち上げる時に空中で一回転してしまったから、
バックから中に入っていた財布やら、ハンカチやら何か何まで飛び出てしまう。
それをホームで見ていた見物人はため息をつく。彼らはしかめっつらをして電車が遅れることを覚悟する。
私は恥ずかしさで顔が赤くなる。
ホイッスルが吹かれ、それ以上に顔が赤くしかめっつらをした、さらなる駅員達が登場する。
その手には同じくダイナミックなマジックハンドを手にしている。
彼らはマジックハンドを試しに空中でぎしぎしと動かした後で、
いっきにホームのへりに立ちいっせいにマジックハンドをすきまに入れ込む。
その動作は熟練のコーラスグループのように、一部の隙もない。
そして彼らは私の人生の一部ともいうべき想い出の品々を次々につかんで、手にもったハンドバックに見事に収納していく。
私の持ち物が救出されるたびに、その軌跡に鮮やかな虹が出来る。
しかめっつらをしている見物人からも、それを見て拍手が起こる。
全ての中身が収まるところに収められ、感謝を込めて私は一つ一つのマジックハンドと握手をする。
そして戦地からようようと引き上げる駅員の肩でマジックハンドは互いに充実のハイタッチを行い、それから次の仕事の前の僅かな休憩を享受する。