エア出品 おすすめ短編小説20選
僕の暮らす山崎地域の京都側大山崎町で、11月21日~23日に「おもてなしウィーク」というのが開催されます。
「おもてなしウィーク」は町あげてのお祭りみたいなイベントで、今年は今までで最大規模での開催だそうで、たぶんもうこの規模はないね(笑、と言ったのは某お店の店主さん、全部で約80店の参加です。
その中で、「一箱古本市」という企画があり、それに参加します。
「一箱古本市」は家にある本棚から、参加者が一箱分の本を選び、本屋さんになるお祭り。
2005年、東京の不忍(しのばず)ブックストリートではじまりました。
売るというよりも顔の見える古本市として、交流がメインです。
それがゆえに、ミエとプライドと思い出と愛情と僕が入り混じる、平松絵里的な悩ましい選考を経て出品することになります。
出したいけど、これは手放せないからもう1冊買うかなぁと、本末転倒状態になりそうなのを、ぎりぎり堪えました。
出したのは、最低限面白いもので、もう一度は読まないかなという本です。
というわけで、あれもこれも紹介したいというストレスを溜めたので、もし、いくらでも在庫があって、何でも出していいというなら、出したであろう溺愛の短編集を、このブログでエア出品します。
選んだのはコンテンポラリー中心です。短編集であれば、その中の1作品を特にオススメしています。番号に特に意味はありません。
1、「最後のウィネベーゴ」 コニーウィリス 『最後のウィネヴェーゴ』より
河出書房新社
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古本市に出そうと思って、これを最後にと読み返したら、通勤中の電車でわけわからんぐらい落涙して取りやめ。とても手放せない。
世界中の動物が絶滅しかかっている世界で、同じく最後の1台ではないかと思わしきRV(いわゆるキャリアーカー)ウィネベーゴの話。路上でジャッカルの死体を見つける所から始まります。
SFの女王といわれ、「航路」や「ブラックアウト」など大長編のイメージが強いコニーウィリスですが、短編も劣らずすばらしいものがあります。同タイトルの日本編集の短編集が出ています。最後のウィネベーゴはシリアスものですが、スクリューボールコメディ調のラブコメを書かせたら右に出るものはいない人でもあります。
2、「聖像」 ウィリアム・トレヴァー『密会』より
新潮社
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「英語圏最高の短編小説家」とも称されるトレヴァーの2004年刊の短編小説集「密会」から。
作品量とその質の高さ。そのなかから「聖像」をオススメしておきます。「聖像」は貧しいながらも「聖像」を作る不遇の夫と妻の話です。生まれてくる子どものために、彫像を諦めて道路工事現場で働こうとする夫と妻の話。
全編を読破して、ついでに翻訳するというのが僕のささやかな夢です。ベッドにぶっとい全集が、配備されています。先は長い。
3、「きみがそう望むなら」 ローリームーア 『アメリカの鳥たち(Birds of America)』より
古本屋で100円だったが、100円なんてありえません。傑作。
レイモンドカーヴァーの良い意味での後継者の一人だと思っているローリームーア。
Oヘンリ賞を受賞した「ここにはああいう人しかいない」も収録されていますが「きみがそう望むなら」が好き。
初期のセルフ・ヘルプからここまでの到達。こういうのを成熟っていうんでしょうね。
4、「ロヨラ・アームズの昼食」 スチュアートダイベック 『僕はマゼランと旅した』より
スチュアート・ダイベックの第3短編集より。粒ぞろいで、かつ微妙に話が繋がっているので、一つ選ぶのが難しいけれど佳作の「ロヨラ・アームズの昼食」を。よく聞くフレーズ音楽的な文章とはこの人のためにあります。
まるでコンサートに来たみたいな読書感。インタビューによれば、結末は何も考えずに書いていくスタイルだそうです。この作品はあまりにうまいので、文章を丸写ししたことがあります。
次点にはここに収録されていないけれど、シカゴがモデルでない「ペーパーランタン」をあげておきたい。
5、「孤独の円盤」 シオドア・スタージョン 『不思議のひと触れ』より
河出書房新社
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SFのくくりを超えて、今や短編小説といえば必ず名前の挙がるスタージョン。ブルドーザーの運転手をやってたり、ホテルマンだったりと色々な仕事をしてたみたいです。「どんな孤独にも終わりがある」の「孤独の円盤」を選択。
これもまた一つ選ぶのが難しい作家、次点として「時間のかかる彫刻」もあげておきます。
6、「J・フランクリン・ペインの小さな王国」 スティーブン・ミルハウザー『三つの小さな王国』より
白水社
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自分で書いたことにしたい作品代表「J・フランクリン・ペインの小さな王国」を
。この人は特に作家の間で人気があり、ピューリッツア賞でノミネートされて、選考のかなんかの時には、同じ作家からサインを求められまくったエピソードがあり。もしいたら同じくサインしてもらいたいです。
だれかれ構わず薦めたくなる作家です。
7、「夜空の皇帝」 イーサン・ケイニン 『エンペラー・オブ・ジ・エアー』より
自分に合う作家をあげるなら、迷わずこのイーサン ケイニンをあげます。
読んでいると不思議と心が落ち着きます。『エンペラー・オブ・ジ・エアー』は処女短編で医者の勉強をしながら(彼は医者でもある)書いた作品。短いものから中篇にかけての話が得意のようです。
僕が持っている本は東京の古本屋で買ったもので、家宝になっています。「夜空の皇帝」は表題作。病気になった庭の楡の木をめぐる老人と隣人の物語、こう書くと地味ですね。
そういえば、ネットがまだない時に、アメリカに行った友人に、原書を買ってきてもらったのをふと思い出しました。
8、「レイニー河で」 ティム・オブライエン 『本当の戦争の話をしよう』より
文藝春秋
売り上げランキング: 48,345
「この話は誰にもしたことがない」と始める告白調。どうして自分がベトナム戦争に行くことになったのか語る主人公。ティム・オブライエン自身の独白に聴こえます。ほとんど本当の事だったのではないかと思います。
考えたことありません?嫌なのにどうしてみんな戦争に参加するのかを。
9、「夜更けのエントロピー」 ダン・シモンズ 『夜更けのエントロピー』より
河出書房新社
売り上げランキング: 372,298
図書館で借りて読んで、即日本屋に買いに行った思い出のある本。この時はまだ僕は父親になっていなかった。
世界で最も大事なものを失った人に「夜更けのエントロピー」を。
あ、今作っている映画って、ここからの影響があったのかと今さら気が付きました。
10、「クリエイティブ・ライティング」 エドガー・ケレット『Suddenly, a Knock on the Door』より
海外翻訳ものが売れなくなったというニュースが出ているし、英語圏の作家ではないし(イスラエル)
今後も翻訳は出ないかもしれないが、現在最高の作家の一人です。英語版が出てるので英語で読めます。
読めないなら英語を学んででも読んだほうがいいぐらい。
この作品は人気が高くネットで読めるし、いろんな俳優によって朗読が記録されています。
※追記 2月6日
翻訳出てました。「創作」というタイトルです。そして本も出ます。
新潮社
売り上げランキング: 79,288
11、「希望の贈り物」 レベッカ・ブラウン 『体の贈り物』より
「くの字」号泣レベル。レベッカ・ブラウンはケースワーカーとして働いた経験があるらしく、この本でもその経験が活かされている。
「エイズになった人の世話をするホーム・ケアワーカーが主役」という話しですが、もちろん、お涙頂戴の話では全くない。
12、「あなたの人生の物語」 テッド・チャン 『あなたの人生の物語』より
たった一冊の短編小説本で、SFのスーパースターに躍り出ただけでなく、一般の小説愛好家にも知られるようになった中国系二世の米国人SF作家テッドチャン。粒ぞろいの名作だらけですが、特に「あなたの人生の物語」がベスト。
映画化も進行中だそうで、難しい話なのに企画を立てた人は、大変良い趣味をしています。
13、「月は今でも明るいが」 レイ・ブラッドベリ『火星年代記』より
早川書房
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華氏451度と並び、ブラッドベリの双璧扱いの「火星年代記」26の話が繋がっているので長編小説扱いされますが、実質短編集。この中の「月は今でも明るいが」が特に好きで、同じようなモチーフで書いて失敗した経験あり。
14、「カセドラル」 レイモンド・カーヴァー『大聖堂』より
中央公論新社
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本好きのOLの鞄にはだいたいこれが入っていたというほんまかいなという噂のあるレイモンド・カーヴァー。
1作選べというのが不可能事に近いですが、これにしておきます。時々夜部屋でソファに座っているとこの短編のラストが蘇るときがあります。
15、「人形の家」 トーベ・ヤンソン 『人形の家』より
筑摩書房
売り上げランキング: 479,850
うまいカレーが食べられるという神戸のカフェに行って、おもむろに読み始めたらカレーどころではなくなった思い出あり。
ムーミンの作者として有名ですが、小説家としても超一流です。トーベ・ヤンソン・コレクションは全部読みましょう。「人形の家」といえば、イプセンが浮かびますが、個人的にはこっち推しです。地味ながらすごいよ。
16、「パン屋再襲撃」 村上春樹 『パン屋再襲撃』より
文藝春秋 (2011-03-10)
売り上げランキング: 82,334
村上氏から1作と思って、まぁ選べないなと思いながらベタにこれを。以前自分で書いていた小説で似たような流れになってしまい、ボツにした事があります。再襲撃にもっていく展開は、並大抵のひらめきではないです。感覚で書いているようで、短編のセオリーを意識したテクニカルな小説です。
ちなみに、前日譚と一緒になった「パン屋を襲う」というイラストつきの本が出てます。
17、「七番目の出来事」 リチャード・パワーズ 『モンキービジネス 2009 Summer vol.6』に収録
ヴィレッジブックス
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高音が出るのに、少し音を下げて余裕を持っている歌っている感じ、馬力も技術もすさまじく、とても遠く及ばないすごい作家。
個人的な体験を元にしたフィクションだと思いますが、本当に追悼文のようによめる。短編だけど短編じゃない気がする。心の奥底にまで届きます。
頭が良すぎる人で、作品のとんでもない情報量と知的な部分がクローズアップされますが、いつも書いているのは、様々な形の家族や兄弟のこと。
最近ネットで人気の出た話「病室の窓の外の景色」がうまく使われています。というか元ネタですか?モンキービジネスという文芸誌に訳が掲載されました。
18、「挟殺」 ジョー・ヒル『20世紀の幽霊たち』
偉大すぎる父親の元で生まれ、同じジャンルで勝負するのって大変なんだろうなと邪推したが、読んでみての感想は「短編ならお父さんよりも面白い」と思います。大したものです。キングさんも喜んでるだろうな。それとも嫉妬したかな。「挟殺」はエンディングが好みなのでチョイスしました。全部オモロイです。
19、「センシニ」 ロベルト ボラーニョ『通話』より
白水社
売り上げランキング: 101,083
いろんな意味でかっこいい。ウディ・アレンなのに、タランティーノとボルヘスとロートレアモンを混ぜたとは解説の言葉。
洒脱っていうんですかね、こういうの。文字の音が聴こえる。何度もいうけどほんとカッコいい。
「センシニ」はかけだしの作家の”僕”が応募した文学賞にのっていた、次点の作品に興味をひかれ作者の「センシニ」と交流がうまれる。その後で2人は賞金稼ぎのために、ありとあらゆる文学賞に応募していくという話。
20、「雲」 アントニオ・タブッキ『時は老いを急ぐ』より
タイムトラベルとかではなく、文章で実際に時間を曲げられる唯一の作家。「雲占いの術をみがいているんだ」と海辺で少女に語りかけるシーンが大好きだ。というわけで「雲」をお気に入りにあげておきます。
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次点 「少女のように生きている」 、、、えーと、折小野和広 『少女のように生きている』より
いや、えーと。面白いらしいですよ。ほんとに。表題作の他に「可能性の国」がオススメです。「これって本当の話じゃないよね?」というのが妻の感想です。
まぁ最後は華麗なるオチがつきましたが、愛読の「短編20選(21選)」エア出品でした。
既に絶版のものもありますが、興味があれば探して手に入れてみてください。
あ、もちろん「一箱古本市」でもお待ちしています。