エドガル・ケレット(Etgar Keret)新作の話 その2「作家のための10のルール」

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というわけで、昨日のアップしたエドガル・ケレットの話の続きです。ケレットは2012年にRookieというティーン向けの記事が投稿されているサイトに「Ten Rules for Writers」という文章を送っています。

「作家のための10のルール」という、なんか本屋でやたらみるような微妙な題名ですが、要するに作家の心構えのようなものです。

 

僕はこれをとても気に入ってるので、印刷してトイレに貼って毎日見ています。役に立つルールというよりも、ケレットらしいお話みたいな10ルールなので、読んでいて飽きないのも貼ってる理由の一つです。
 

原文だとあれなので、一応訳してみました。

※誤訳とかあるかもですが、容赦ください。英語からの孫訳です。

1. 書く事を楽しむように

作家は、よく執筆作業がいかに辛いもので、書く事がどれほど大きな苦しみをもたらすかについて話したがります。でも、彼らは嘘つきです。人は心から楽しめる事で生計を立てているのを、あまり認めようとしないものです。

書く事は、別の人生を生きる一つの方法です。書く事で、他のたくさんの人生を、あなたが生きる事のできない無数の人生を生きることができます。
机に座ってノートを開いて、書いて見れば、うまく書けなかったとしても、必ずそれはあなたの人生の見方を広げる機会を与えてくれます。
それは、楽しくて、かっこよくて、素晴らしいものです。他の誰かに、違った風に言わせてはなりません。

 

2. 登場人物を愛しなさい

登場人物をリアルなものにするためには、この世界で少なくとも最低一人の人間が、その登場人物を愛し、理解してやる必要があります。その人物の行動が好きであろうとなかろうとです。あなたは、あなたが創造した人物の母親であり、父親です。もし愛せないというなら、他の誰がその人物を愛してくれるというのでしょう。

3. あなたは誰にも、何も、負っていません。

現実の人生においては、もし行儀良くふるまわなかった場合は、最終的に刑務所や施設に入れられることになります。しかし書く時は、何でもありです。もしお話の中で、登場人物があなたにモーションをかけてくるようであれば、キスしてやりなさい。嫌いなカーペットがあるなら、リビングルームのど真ん中で火を放ってやりなさい。こと書く事においては、ボタン一つで、地球まるごと吹っ飛ばしたり、文明を丸々消し去ってもOKです。そうしたところで、1時間後にマンションの入り口で出会った老婦人は、ちゃんとあなたに挨拶してくれるでしょう。

 

4. 話の途中から書くように

 

話の始まりは、ケーキの焼き型にひっついた、ケーキの焦げた部分のようなものです。動き出しには必要かもしれませんが、実際の所、それは食べられません。

 

5. どんな風に話を終えるか、分からないようにしておきなさい

 

好奇心は強力な力です。それを手放さないように。物語や章を書こうとするとき、状況や登場人物の動機をコントロールする必要はありますが、物語の筋がねじれて、自分がびっくりさせられる状態にいつもしておきなさい。

6. 「そういうものだから」という理由は無意味です

 

段落や引用符や、登場人物がページをめくっても同じ名前であり続けるのは、ひとえにあなたが書くのを助けるためのしきたりに過ぎません。もしうまくいかなかった場合は、全部忘れてしまってください。

今まであなたが読んできた本に適用されていたルールが、あなたの書く本にも適用できるわけではないというのが、事実です。

 

7.自分らしく書きなさい

ナボコフのように書こうとしても、あなたよりうまく書く事ができる人が必ず一人います(その人物の名前はナボコフです)
しかし、自分のやりたいような方法で書けば、あなたは常にあなたらしさの世界チャンピオンです。

8. 書く時は、常に部屋で一人になりなさい。

 

カフェで執筆するというのは確かにロマンチックです。周りに人がいるというのは安心感をもたらします。でも意識していようがいまいが、周りに誰もいない状態であれば、あなたは自由に独り言を言ったり、鼻をほじることができます。書く事は、ある意味、鼻をほじるようなものです。だからもし周りに人がいるような状況であれば、その仕事はあまり自然な風にはできないでしょう。

 

9.あなたの書いたものを好んでくれる人に、後押ししてもらうように

そして、他の全員を無視してしまいなさい。まぁ単に彼らにはあなたの書いたものが合わなかっただけです。気にする事はありません。この世にはたくさん作家がいます。もし懸命に探せば、自分の期待したようなものを書いている作家を見つけることができるはずです。

10.人が言う事に耳を傾けなさい、でも誰の言う事も聞く必要はありません(自分は例外です)

 

書く事は最もプライベートな世界です。誰もあなたに、どんな風にコーヒーを好きになるかを教えられないように、書き方を教えることなどできません。
誰かが、もしあなたにアドバイスをしてきて、それが正しいように感じたのなら、使いましょう。もし誰かがくれたアドバイスが、頭では正しいと考えられるけれども、間違ってると感じるなら、1秒たりとも時間を無駄にする必要はありません。それは他の誰かには有効かもしれませんが、あなたには有効ではありません。

 
以上がケレットの「作家のための10のルール」です。特に1の楽しむ・・と5の終わりを分からないようにしておくというのが印象的で、よく考えています。書くのは楽しみばかりではないのは確かだし、プロットは先に書かない主義が同じなので。1番に楽しむ・・をもってきているのは、ケレット自身の戒めでもあるのかなと邪推したりしています。
 
もちろん、10番目のルールに書いてあるように、このルールも正しいかどうかを決めるのは自分の声です。
 
ちなみに、この「作家のための10のルール」 には面白い後日談があって、アメリカの作家のエルモア・レナードが書いた10ルールのなかに”suddenly”という言葉を使ってはならないというのがあります。原文:Never use the words “suddenly” or “all hell broke loose.”というものです。
 
ケレットの最新の短編集のタイトルが 「Suddenly, a Knock on the Door」で、言葉どころか本のタイトルで思いっきり使ってます。ケレットはこれを後で友人に教えてもらったそうで、本を出す前に知らなくてよかったよ、なんて言ってます。面白いですね。
 

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