今日はどんな遊びをしてもよい日

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中学生だった頃、通っていた中学はわりと荒れていて、多かれ少なかれみんなヤンキーみたいだった。
手に負えないような状態は終わっていたものの、窓ガラスが割れて段ボールで補強された箇所が残り、昼間に改造バイクに乗った連中がゴッドファーザーのテーマも高らかにグランドに突入してきたりとか今思うとなんかすごい時代だ。

クラスの不良と呼ばれる友人(本当に友人だったのだが)はたばこやらシンナーやらをバカスカ吸い、変形ズボンは当然みんな持ってるよねで、財布は長財布で後ろポケット。その表面には彼女の名前シール。なんとか命とかそういうの。

僕はと言えば、そういう所から少々外れていて、ジョークの通じる優等生みたいな立場を確保していました。
まわりの人々が相当マッチョなおかげで、報復を恐れて他校生徒からのカツアゲもなんと免れられていたのも幸運でした。

そのせいなのか、各地から屈強な先生が学校に集められていたらしく、竹刀もった理科教師とか平気でいたし、先生たちもかなりワイルド。音楽の授業を除けば女の先生はいなかったように記憶しています。

その先生たちの中で、一人2年の時の担任の先生が少しばかり異質だった。その先生は美術の先生で、全体的にシニカルな雰囲気が漂って、背が高くてチリチリの天然パーマ。一度だけ美術室の奥の部屋に入らせてもらったが、そこには先生の書いた油絵の作品があった。本当は画家になりたかったのかもしれない。

僕がその先生をよく記憶しているのは、その絵ではなく(すいません先生)、沙悟浄というあだ名でもなく。1日の終わりのホームルームと呼ばれる帰る前の連絡時間のせい。先生は入ってきて一言も話さず黒板の前に腕を組んで立っていた。そしてクラス中の人が先生に気が付き、全員が黙るまでひたすら待っていた。30分でも1時間でも静かになるのをただ待っていた。

そしてようやく全員が黙ると、では今日の連絡事項です、と何事もなかったように話し始めた。なぜ自分がこうして黙っていたのかを一切生徒に説明することはなかった。
おかげでクラスが終わるのが遅くなって、部活に遅れるから不満だったけれども、当時からそのやり方に感心していたのを覚えている。

どこかで書いたこの話をもう一度するのは、保育の質の話を書きたいからだ。

島本町は今、保育緊急事態宣言が出るほどに過密&待機児童問題を抱えていて、対策に追われている。もともと島本町は保育しやすいというイメージがあったのんびりした町だったけれど、それはもう過去の話。宅地開発やら保育ニーズ増やらなんやらで、保育を必要とする人が増えて平成18年にはすでに過密という表現がなされるほど、定員を超えて受け入れてきた結果、極端な過密保育に陥ってしまった。さんざん考えたけど、物理的な保育スペースが全く足りないので、もう完全に詰んでる状態でどうしようもない。

それでも、保育の質がなんとか保たれているのは保育士の配置基準を緩めなかったから。もしやってたらとうに崩壊していたかもしれない。

で、この保育の質という言葉ですが、なんとなく分かるけど、よく分からないものでもあります。
素人考えで、子供が活き活きしていることか?とか環境が良いことか?であるとか、ただ安全なことか?と、いろいろ考えるけれど「これだ!」という答えがなかなか見つかりませんでした。
(悪い方は収容所みたいなのをイメージすれば簡単なんですが)

で、ようやく先日、もし過密園でなくて過疎?園だったら、いったいどういう保育ができるのだろう。もし十分に保育士が配備されていて、十分に園に広さがあったらどういう保育になるんだろう?と。
それが答えなんじゃないのと今更思い、ふいに今うちの子が通っている第2幼稚園の事を思い出しました。トウダイモトクラシーです。

ちなみに保育園と幼稚園という違いはあるものの、2018年の保育所保育指針では、「子どもの状況や発達過程を踏まえ、保育所における環境を通して、養護及び教育を一体的に行うことを特性としている。」と人格形成の基礎を培う「教育」を保育園でも行うことという事になり、幼稚園・こども園は「教育」、保育所は「養護」だったのが、今はもうその差はないものと考えて良いことになっています。

僕は保護者ではあるものの、当然ながら素人です。だから本職に聞くのが一番。
もっと早く気が付けば良かったんですが、わりと僕は鈍いです。恥を忍んで先生に電話でアポを取りました。

そして電話しながら、もう一つ行くべき理由を思い出しました。最後の年に第2幼稚園がどういう所だったのか、何をやってきたのかを保護者として一度しっかり聞いてみたいと思っていた事もあります。

何度も言っていますが、島本町立第2幼稚園は今季で閉園になります。最終年。そして他の園の状況とは違って、過密とは真逆です。年長さんは、ほし組のみで21名。年少さんリス組は12名、合計全園児33名。他の園に比べると極端に少ない。参考までにいうと、第1幼稚園は120人です。

言葉を選ばずに言いますが、2年前に1年での強制退去を行政から迫られ、それを拒否して1年延ばしてもらいました。ボロボロになった頑張りに対するこの1年の環境は、運よく踏ん張ることができたボーナスだったと思います。耐震化できていない建物で過ごさせる怖さはもちろんありましたが、環境は屈指です、園のすぐ背後に山がある、そばに遊べる川がある。作物を育てる畑に囲まれている。そして空がめっちゃ高い。そしてなぜか過疎園。降ってわいた最高の環境、先生方の人数も十分。これ以上望めないなという環境です。

その園でどういう教育をしたのか。何を学んだのか、日々どういう生活をしてきたのか。それが知りたかったわけです。
毎日息子に質問はしてたんです、今日はノリで川に行ったとか、散歩もあちこち出かけている、作物を育てたり、川でもちろん遊ぶ。

でも、それはほかの園でもあるのではないかなと思っていました、頻度が格段に多いですが、そこはクリティカルな部分ではありません。
だから、先生にずばり聞いてみました。第2幼稚園の方針はなんだったんでしょうか?と。どんな教育を心がけていたんでしょうか?と。

先生の答えは意外なことに「児童の自主性」でした。園児少なめだし、最後だし、寂しいだろうからイベントいっぱいにするのかなと思いましたが(もちろん日々のプチイベントだらけになったんですが)人数が少なかろうが何だろうが、それは関係ない。保育方針は子供たちの自主性ですと言い切っておられました。

つまり、「自分で気が付くのを待つ、自分で選択させる」ということをとことんやってみたということです。人数が少ないから、園児の面倒を見ることが簡単なんですが、すぐに手を出さない。とにかく待つこと。園児を観察して何ができるかを見極めること。冒頭で書いた中学の先生が浮かびます。

帰り支度が遅ければ、カバンにタオルやら空のお弁当を入れてやれば速いけどやらない。遊びに誘って引っ張って行くのは簡単だけど、自分で選ぶように待ってあげる。いったん遊び始めたら、それを全力でサポートする。細かいことを言えば、お帳面と言われる毎日のノートもきちんと開いて出さないと受け取らない。開けてない場合は何かおかしいけど何だろうね?と問いかける。

一見、先生方は何もしてないように見えます。そうじゃなくて、環境は整えるが選ぶまで待つ、そして困っているのであればそっと押すという微妙な力加減を続けるということです。そして子供の言葉や態度の変化を捉える。そしてまた違った声をかけていく。子育てした人ならわかると思いますが、子供のやり方に合わせてあげるという難易度の高い仕事をしてくれていました。そしてそれを1年ないし2年の計画で子供の成長を見守るのです。

で、運動会なりイベントはイベントで派手にやる。そのイベントでやることも園児の意見を組み入れます。

そして、日々の園での生活でも運動会じゃないのにリレーする。正月は終わったけど水無瀬神宮まで行っておみくじを引く。

ここに、今年第2幼稚園がどういう遊びをやったのかという羅列を書きます。
先生に聞いたことと、毎月もらえる園だよりをまとめたものです。

遊び
砂場、図鑑持参観察、スクーター、こいのぼり製作、泥んこ、色水、虫取り、絵の具(絵画)折り紙、廃材工作、シャボン玉、水鉄砲、石鹸作り、船作り、七夕製作、ダンス、スライム、ボディーペイント、かき氷、タイヤ取り、染め物、ピタゴラスイッチ、切り張り、シャボン玉アート、リレー、下駄遊び、キャンプ、けん玉、カブトムシ飼育、パン作り(小麦粉)鬼ごっこ、一輪車、なわとび、リース作り、マラソン、相撲、ドッチボール、凧上げ、あやとり、切り絵、こま、楽器演奏、カードゲーム

園外内活動
散歩(水無瀬川、東大寺公園、畑、田んぼ)親子遠足、プラネタリウム、川遊び、親子運動遊び、買い物、交流、七夕会、プール遊び、川遊び、DAYキャンプ、夏祭り、敬老会、運動会、遠足、自然観察、稲刈り、作品展、もちつき、クリスマス会、初もうで、二幼フェスタ、豆まき、生活発表会、あそびのひろば、ひなまつり、

栽培(という項目があるのがいい)

綿、あさがお、ふうせんかずら、夏野菜(トマト、ピーマン、オクラ、きゅうり)里芋、田植え、玉ねぎ、びわ、じゃがいも、なす、大根、ニンジン、ブロッコリー、柿、さつまいも、冬野菜(カブ、ホウレンソウ、小松菜、ラディッシュ)米、チューリップ

会食(お弁当不要の日、最高の日)
カレー、みそ汁、梅シロップ、夏野菜ビザ、流しそうめん、白玉だんご、梅ジュース、かき氷、焼き芋、ピザ、スィートポテト、味噌汁、シチュー、豚汁、餅、飯盒炊爨、お雑煮、カブシチュー、ちらし寿司、バイキング

講師指導(フリーで呼べる講師の授業)
キッズヨガ、運動遊び、山遊び、おもちゃ遊び

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そして、もう一つ重要な質問。良い保育をするためには何が必要ですかと。保育の質ってなんですか?

まず何としても欲しいのはスペースですと。広さとそして自然環境。

5年前の第2幼稚園は、一時的に良くない場所になっていました。詳しくは知らないのですが先生方がケガをさせるのを恐れて、広い園庭をあまり使っていない状態だったそうです。
それを今の先生方が変えてきました。

「ケガ予防は、園庭に行かせるっていってもただ連れていくんじゃなくて、チームを組むんですよ、引率者とそのサポートのセットが基本。それから園舎から全体を見る人を配置することが基本セットになってます。何するにしてもこのセットから。チームプレイですと。そうやって変えてきました。」

そして、ケガは室内でも起こる。過密だとまず間違いなく児童同士で手が出るそうです。小さい子は噛む場合もある。外で遊んでももちろんケガがないわけではないけれど、そういう後に響く深刻なものにはならない。
遊びを自分で見つけてそれに夢中になると、手が出たりはしない。子ども自身が興味を持ち、自らつかもうとする気持ちを受け止め、環境を構成し援助すること。

僕の思う良い保育とは、結局こんな風になるでしょうか。

自主性を重んじ、子どもが自由に発想すること、人を信頼すること、自己表現をすること。
記憶に残る体験をいくつもして、その体験に自然(命)が近い事。

そして「子供と保護者と先生方」の全員が楽しく安全に日々をすごしていてそれが実感できること。
お迎えの時も、先生方と他愛ない話ができる。それもいいです。僕みたいなのが電話1本で相手してもらえることも付け加えましょう。

第2幼稚園は今期、そういう形での教育を行っていました。
まだまだ足りない部分はありますよは先生の弁ですが、そういう考え持った園に行かせられたのは嬉しかった。
無理をしたかいがあったというものです。

うちの子はプールがあんまりだったのですが、水平線見えそうな琵琶湖に服着たまま飛び込んでいったのを見て納得しました。成長してるなと。

保育のトップランナーと言われる妹尾さんという方が自主性についてこういう事を言っています。

「そもそも教育とは民主的な社会を実現するためにあります。そのためには教育も民主的でなくてはなりません。民主的な教育というのは、大人が一方的に教えて育てるということではなく、一人ひとりの中にある可能性や資質を引き出していくことだと思います。」

先生に話を聞きに行った翌日、いつものように息子が寝る時に今日はどんなことをしたの?と聞きました。

「今日はどんな遊びをしてもよい日、お弁当も好きな時間に食べて良い日」

いつ食べたの?と聞くとわりと早弁だった。すぐたべた。友達が「食べようー」誘ってきた時にお腹すいてたからすぐ食べたと。そうかそれは楽しいなぁと僕。答えながらも少し目が潤んでたかもしれません。好きな遊びの日がたくさんあるのは聞いてたけど、お弁当もか。すごいな2幼。

そんな第2幼稚園はあとひと月で姿を消します。

跡地には、昨年末に民間こども園を公募したけれども、手があがらず、今再び公募がかかっています。今の町の方針はあくまで民間こども園の誘致です。僕は個人的にはこの先生方の試みが続けられる公立のこども園が良いとは思っています。でもそれはたぶん実現しません。

国際経済協力機構OECDのデータやら、東京大学教授の秋田先生の記事において、保育の質は、まず第1段階として、園の広さや過密でない状態をあげています。そして第2段階は、まさに保育士のそのもの質が重要だとふれています。広さや安全か確保された後、追及されるのは保育士の資質が大事であり、そのために先生の研修が大切であることです。先生方にも当然、能力や力や視野の広さがあり、新人とベテランは同じではない。子だくさんのお母さんとも、もちろん違うスキルです。

5年前に新しい先生が来て第2幼稚園は変わりました。今の先生方が第2幼稚園で試みたこと、できたこと、できなかったこと。もちろん完璧じゃないこと。
1か月参観はできなかったなとか言っておられましたが、自発的に隣町の研修にも行っておられました。

第2幼稚園は消えますが、そういう経験が先生方に残っている事、その先生たちが町にいること。島本町が今の苦しい緊急事態を抜け出した時には、その先生方の活躍が想像できること。それが僕が今思っている島本町の保育事情の何よりの希望です。

あと20日ほどありますが、僕からのお礼を言わせてください。
うちの子を楽しく過ごさせてくれてありがとうございました。第2幼稚園は素晴らしい園です。
あとひと月ないですが、最後までよろしくお願いします。
P1170064

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