かわいい女 レイモンド・チャンドラー
「長いお別れ」がチャンドラーの最高傑作だということに異論の余地はないと思うけれど、じゃあ2番目は?となると結構悩む。チャンドラーは基本的に話の筋が似ている作品が多いし、そもそもどんな物でも2番目というのは決めにくく、その時の気分によって変わってしまうものだ。だが、今日のように雨がぱらつき、ささくれた気分であれば、選ぶのはこの「かわいい女」原題(THE LTTLE SISTER)である。ロマンティックだけれども乾いた会話にビシビシとくるいつものマーロウと違い「かわいい女」でのマーロウはどことなく優しい。言葉に奥ゆかしさがある。理由は読んでいくと分かるのだけれど、マーロウがかなわぬ恋をしているからである。
もちろん、他の作品でもマーロウは常に女達といい仲(死語?)になっていて、後に結婚することになる、リンダ・ローリングが最たるものだと思うけれど、結果的にとはいえ、プラトニックな恋をしているマーロウが読めるのはこの作品だけ。恋をしているとわかる直接的な描写が「いつものように」全然ないので、 気付いた時には少し驚く。そうだったのかとマーロウに共感する。自分の世界と相手の世界の明らかな違い、それから状況の悪さ、彼女が好きなのねと聞かれたマーロウがどうしようもなく言うせりふ「僕が求めているのは手を握ってやっている事、それ以上のものなのだ」と言う、その時のマーロウがほんとうに生身の人間のようで、このマーロウがものすごく好きなのだ。
チャンドラーマニアと言っていいと思う村上氏が翻訳したものもでていますが、未読です。