エドガル・ケレット(Etgar Keret)の新作「THE Good Seven Years」が出るそうだ、その1
先日、Webを何気なくチェックしていたらエドガル・ケレット(Etgar Keret)の新作(ノンフィクション)のジャケットのイラストを発見する。
新作でるの!?と興奮して確認したら「THE Good Seven Years」というノンフィクションが出るらしい、というよりももう出ていた。
内容は、自分の子供が生まれてからの7年と、父親の最後の7年の話。自伝のような日記のようなものらしい。ノンフィクションは初だ。
というわけで、今日はエドガル・ケレットについての話。
でも、出てるのは、ドイツ、フランス、オランダ、ロシア、トルコなどヨーロッパ周辺国のみ。
英語圏でリリースされるのは2015年になってからだそうで、がっくりだ。
エドガル・ケレットを知らない人のために、多少解説すると、ケレットは1967年生まれのイスラエルのユダヤ系の作家で原書はヘブライ語だ。
両親はホロコーストの生存者。3男で、テレビや映画の仕事をしながら本を出版している。
たぶん、日本では小説というよりカンヌで賞をとった「ジェリーフィッシュ」という映画で知られていて、あと絵本が日本語で1冊でている。
でも、本当にケレットが優れているのは、ほとんどが3ページ以内で終わる超短編小説で、これまでに、6冊の短編集が出ている。
いずれもこの3ページ前後の話が多数詰まっていて、中には数行だけの話もある。
(※唯一、「Kneller’s Happy Campers」という中編もあるが、個人的にはもう一声足りない気がする。)
ともあれ、彼は信じられないぐらい優れた作家で、かなりすごい仕事をする。
個人的には名前を耳にするだけで「体温が上がる作家」であり、値段がいくらだろうと向こう見ず買いが発動する人だ。
しかも、facebookにいつも面白い投稿をしてくるエンターテナーでもある。おもろいおっさん呼ばわりしそうになる。
とある書評にはこうある「たった数ページで、並の作家が数百ページ費やすことをやってのける」と。
僕もこれに同感。自分と比べても仕方がないが、同じ文章を操ってもこうまで差があるものかと読むたびにつくづく思う。
初めて読んだのは「ニューヨーカー」に掲載されていた「CREATIVE WRITING」という話だった。
今もWebに掲載されているので読んでみると良いと思う。英語だけど簡単なのでたぶん読めると思う。
あらすじはこんな感じ。子供を流産して家に閉じこもっていた妻が、クリエイティブコースに通って短編を書くようになる。1作目は人々が自分の好きな年齢で分裂し若返ることのできる世界の話でその世界で分裂を拒んだ女性の話。2作目は愛している人しか見る事のできない世界の夫婦の話。そして3作目は猫を産んだ妻と夫の話。男はだんだん妻の小説に耐えられなくなり、自分も隠れてクリエイティブコースへ行き自分の話を書き始める。男は海を忘れた魚の話を書く。
読み終えた時、息ができずに頭がぼうっとして、全身が熱くなったのを覚えている。これ書いたの誰?何これ?とすぐに調べた。人生で数回しか体験のない、本当に優れたものに出会ったときに起こる驚きの瞬間だった。
その後、出ているものを全作買い求め、間違って同じやつを2冊買ってしまったぐらい入れこんだ。
ちなみに、ケレットは、寓話、奇想というジャンルに押込められそうな話が多い。例えば人気があるらしい「Breaking the Pig」という物語。父親がお金の大切さを教えるために、息子に貯金をさせる、息子は豚の貯金箱にお金を貯めるが、その豚が大好きになり、友達のように一緒に過ごす。でもある日、父親に貯金箱を割るようにいわれる、父親は子供にお金の大切さを教えてやったことで得意になっているが、子供はなんとか豚の貯金箱を逃がそうとする話、であるとか、この世界から逃げ出す事ができる巨大なパイプをせっせと造り続ける男(兵士)の話などがある。
どの作品も、重いのに妙にずれていて本当に面白い。はっきりいってかなり憧れている存在だ。そしてかなり気さくな性格みたいだ。そこも憧れる。
話をこの新作に戻すと、解説が少しだけあって、自分の作品のイマジネーションはどこから出てくるのかと聞かれた時「人生」と答えていた。抜群の文章力と想像力に目を奪われていたわけだったけれど、なぜこんなに惹き付けられたのか、その解説でようやく分かる。ケレットは「実際に起こった事を何とかして書いている作家」なんだということが。起こっていることを寓話にしたり、ゆがめて書く事で一番伝わるということを良く知ってるんでしょう。ドーナツを書くためには、中心の穴をただ書けばいいという言葉を思い出しました。
なんで?日本の翻訳がなぜか出ていない。
これほど個人的に絶賛のケレットですが、日本の翻訳本が全く出ていないのが現状です。
※2015年2月追記
出ました翻訳!!
新潮社
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世界中(26カ国以上)に翻訳されて読まれてるのに、日本だけ訳が出ていないのは、何故なのか全然分かりません。
原書がヘブライ語なのが問題なのか、誰かが翻訳権をもったまま微動だにしないのか。内容からして「柴田元幸」さんあたりがゼッタイ食いついてくるはずなんですが、
英語じゃないからダメなんでしょうか。誰か教えて欲しいものです。海外文学好き25年ぐらいですが、これほどの作品が訳されてないというのはちょっと意外すぎます。
もし、誰もやらないなら、翻訳を自分でやりたいぐらいです。
というか、個人的に時々やってました。
あまりに「うまい」ので、いくつか翻訳して自分で体感しようとして訳してました。
もし、このまま誰もやらないのなら、全編翻訳するのが、僕の夢の一つになるでしょう。
それと、エドガル・ケレットが書いた、作家のための10ルールがかなりためになります。
僕はこのルールを印刷してトイレにはりつけて毎日読んでます。
長くなったので、この10ルールについては、また後日紹介します。
というわけで、後編、その2に続きます。