お米

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むかしむかし、スーパーマッケットでは抽選会なるものが頻繁に行なわれていた。
今だとコーヒーを飲むと缶にシールがはられていて、それを集めてはがきで送るとボスジャン当たるというあれと同じ仕組みだ。スーパーで買い物をするとシールがもらえる。
でも、当時はそんなエレガントなシールではなくて、1枚1枚糊のついていないシートを貰う必要があった。それは10円お買い上げで1枚貰える。
10円で1枚という低単価が、スーパーらしいなと思うけれど、普通の家庭であれば、月に4〜5万円ぐらいは使うわけだから、
その量は最終的に4000枚以上になるわけだ。台紙1枚に100枚貼れるから、40枚分をはる必要に迫られる。
集めるのはもらうだけだから簡単だが、台紙にはる作業なんて誰もやりたくない。
だから、家族の誰もが抽選最終日前日まで誰も手を付けない状態でシールは空き缶の中に収められていた。
それが毎シーズン続いた。

ある時、じゃんけんか何かで負けて僕がその会の台紙をはる事になった。やり始めてから10枚ぐらいで飽きてきる。もともと僕は飽きっぽい性格をしているのだし。

さらに15枚ぐらいで糊がなくなった。次第に腹が立ってきて、糊がないことを母親に伝えた。遠回しにもうヤダと言う事を伝えわけだが、天然の気がある母親は全然意に介していない

冷蔵庫を開けお椀にもられたままの米を1膳出してきた。カピカピになって食べれるか食べれないかの瀬戸際の米だ。母はどんなものでもまず捨てない。戦争をわずかに経験してきた母は、どんなものであれ捨てる事に対してとんでもない抵抗を示す。

それから僕の辛い戦いが始まった。お椀の中の米を手の中でこねて、粒を平たく伸ばす、糊のようになってきたらシートの裏に貼り付ける。
米は冷たいままだし、何よりムラができるのでシートを台紙にキレイにはることがなかなかできない。それでも30枚程度までは根性ではり続ける。しかし僕の忍耐も限界に達する。

最後の10枚ほどは、全くお米をこねないで貼り付け始める。
水分をたっぷり含んで台紙は変色してくる。シートの横から米粒が露骨にはみ出ているうえに、台紙1枚が物凄い厚みを持つようになる。
それは新種のシーフードピザ、あるいは素材不足のキッシュのような趣を見せている。
乾いたのを確認して、母親にばれないように、僕その塊をまだキレイだと思われる台紙に挟み込んで母親に渡す。
それから逃げるようにグローブを持って遊びに出かける。
後は知った事ではない。

しかし、呼び止められる。
遊びに行くなら抽選してきてよと母は言う。
僕は自分がとても、かわいそうな人間だと思い始める。
ロシア人のようにかわいそうだと僕は思う。
別にロシア人がかわいそうなわけはないが、子供心に「寒い=可哀想」という図式ができていたので、世界でもっとも寒い場所のあるロシア人がかわいそうなのだと勝手に思っていた。

いずれにせよそのカピカピの台紙をもって僕は抽選会へ向かった。
それほど混んでない抽選会に到着し、台紙を渡す。米フル装備のカピカピの台紙も渡す。
抽選担当者はその台紙で手を止める。あきらかに顔は「なんじゃこれ」という顔になっている。

全力でがらがらを回しにかかる。
さっさと全部外して、遊びに行きたいと祈る。
しかし、色の違う玉がでる。赤だ2等だ。ちょっと嬉しくなる。

しかし当りはビンに詰められたコーヒーセットだった。
我が家では当時、コーヒーは母親しか飲まない。

外れのティッシュペーパーを大量にかかえ、コーヒーセットを持って変える。
日が暮れ始め、もはや遊びに行く元気もなくなってくる。

くたくたになって帰ってコーヒーとティッシュを渡す。
それを見た母はごきげんになって来月もお願いねと僕に言う。
絶対に嫌だと僕は思う。そしてロシア級の寒さが体に迫ってくる。

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