私を離さないで カズオ・イシグロ

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映画にもなった「日の名残り」でファンになって以来、きちんと原書で読んでいる数少ない作家「カズオ・イシグロ」 の作。最初はハードカバーだけのリリースで、値段がものすごく高かったものの全然待ちきれなくて発売日に購入。ところが、読み始めてみるといまいち進みが遅い。問題のほとんどは僕の英語力にあるのだけれど、イシグロの独特の語り方であるUnreliable narrator、いわゆる「信頼できない語り手」のせいでもある。イシグロの作品は語られている話とは別に、実際に起こった客観的なストーリーが存在している二重構造になっていて、ただでさえ面白いストーリーに、背景にある本当のストーリーを推測していく推理小説のようなスリルが加味されて深みを増しているのである。

 

今回の物語は90年代イギリスの寄宿学校のような学校でキャシーという女学生が学生時代を思い返すといった感じで語られるのではあるが、その寄宿学校がどこか変なのだ。毎週のように行なわれる身体検査であるとか、異様に力を入れている絵画の授業だとか、何より寄宿学校とはいえ全く出てこない学生達の両親の姿。さらに誰も寄宿学校の外の世界をテレビやラジオで見知ったことしか知らない。変だなとは思いながらも自分の英語力のなさがゆえに、その客観的な裏ストーリーがさっぱりわからないまま、何となく平和な恋や悩み多き青春の話だなと半分ぐらいまでだらだらと読み進めていた。

ある日、確か夕方どきだったと思う。近所のスーパーマーケットで白菜を手に取ろうとしていた時に、突然、読みかけのNever Let Me Goが本当はどういう話なのかということを瞬間的に100%理解した。分かった瞬間、自分がどこにいるのか分からなくなるほどの衝撃を受け、買い物どころではななった。今まで読んできた1ページ、1ページが心に浮かび、体を動かすことができなかった。強い感情が胸にせまり、泣くのをがまんすることが難しいぐらいだった。その時の白菜をどうしたかはあんまり覚えていないが、こんなに素晴らしいものを書けるカズオ・イシグロを心の底から尊敬した事はだけははっきりと覚えている。

 

今ではNHKでこの小説が紹介されたり、本人がインタビューにかなり答えていることもあり、読む前からどういう話か知ってしまう事が大部分だと思う。もちろん話を分かっていたとしても素晴らしい小説だということに変わりはないが、この小説をストーリーを全く知らないままに読めた事は幸福な事だった。最良の読者の一人だったと思う。確実に一生忘れない本になった。

 

ヨーロッパでベストセラーになったせいか、いつもなら数年かかる翻訳本が半年ぐらい?でリリースされた。こういう事はあまりないと思うのでぜひ興味があれば読んで欲しい。

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